会計を探し求めて三千里、ならぬ会計を探し求めて校内巡回を行うのはこれで何回目となったのか。
 今日も今日とて僕のささやかな幸せを重い溜息で吐き出しつつ、目当ての人物を捜して校内を歩く。
 以前はまったく見つけられなかったけれど、最近はだいたいの行動パターンが読めるようになってきた。今日も当たりをつけてその場所へ向かっている。
 今日はとても天気が良くて日差しが暖かいから、きっと裏庭だろう。会計は昼寝大好き人間なのだ。
 会計は銀色の髪をアシンメトリーにして、僕と同じでシルバーアクセサリーを多く身につけている人物だ。同じものをよく持っているから、多分小物の趣味が合うんだと思う。でも僕と違うのは、町で有名な不良の一人だということ。すごく喧嘩が強いらしい。僕に会うときはいつも眠そうで、そしてなんだか柔らかい雰囲気だからそんな彼は想像できないんだけれどね。
 そして会計の親衛隊は別名『彼の眠りを守り隊』と呼ばれていて、会計の眠りを妨げる者は何人たりとも許すまじ、という精神で日々過ごしている強者たちが揃っている。
 そんな中、僕だけは何故か寝ている会計に近づくことを容認されている。そうでもしなければ眠りをむさぼり続ける会計が、生徒会の仕事をすることがほぼ百パーセントの確率で無いからだ。生徒会顧問が僕に泣き付いてきて、僕が親衛隊と会計本人と交渉した。
 これって普通は顧問に僕が泣き付く所なんじゃないかなあと思うんだけれども。
 まぁ、とにかく会計の眠りを妨げても良い権利を持っている僕は、会計の判が必要な書類を片手に裏庭に向かい目当ての人物を見つけた。
 クリアファイルにいれた書類を芝生の上に置いて、芝生に仰向けに寝転んでいる会計へと声をかける。
「もうすぐ夕方になるんですけど。風邪引いたら親衛隊が泣きますよ」
 ゆさゆさと体を揺すると、まだ眠そうなとろんとした目で僕を見上げてくる。これが最強の不良って言われても全然ピンとこない。
 僕は眠そうでも格好いい人は格好良くってなんかずるいなぁと思いつつ、そのまま寝てしまいそうな会計の肩をもう一度揺すった。
「ほら、起きてください。そしてこの書類に判をお願いします」
「ん……まだ良い」
 掠れた声でそう呟いて、欠伸をする会計。暢気なものだ。
「良くありませんから。これ明日までの書類ですよ」
「……でも寝足りないから少し付き合え」
 ぐいっとそのまま抱きこまれ、僕は会計の腕の中に収まってしまう。会計を起こしに来てこれが初めてではないけれど、突然の出来事に体が硬直する。
「抱き枕にしないでくださいって何回言えば……!」
「ちょうどいいんだから仕方ない。こうすれば暖かいし、おとなしく抱かれておけ」
「変な言い方しないでください。僕は仕事がまだ残って……」
 耳元で寝息が聞こえ、もう片方の会計の胸についている耳からは規則正しい心音が聞こえてきて、僕の叫ぶ声はどんどん小さくなってく。それと共に触れあってる部分から暖かい体温が伝わってきて、僕にも眠気が押し寄せてきた。
「……仕事あるから駄目なのに」
 太陽の暖かな日差しと会計の体温と心音が心地よくて、最近寝不足気味だったのもあるからか、僕はゆっくりと眠りの世界へと誘われる。
 仕事モードからお昼寝モードへと変わって眠りに落ちた僕は、会計が近くにあった書類が飛んでいかないように引き寄せ自分の体の下に置いたのも、僕の金色の髪の毛を優しく梳いていたことにもまったく気づかなかった。
 そして僕の親衛隊と会計の親衛隊が、今日も金様と銀様が仲良く寝てらっしゃいます、と微笑ましそうにこの様子を眺めていたことも知らなかった。
 そんなぽかぽかとした日差しの中で眠りに落ちた僕のお昼寝テンション。


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