「ネガちょーだい」
「断る」
 先程からどちらも譲らず、押し問答が続いている。

 二人の間にあるのは会計と僕の昼寝写真。がっちり抱き込まれて抱き枕にされてる僕が不敏に見えてくるほど、会計と僕は体格差がある。これでも173センチはあるのに。
 まあ、僕の不敏さはともかく、そのネガを寄越せと言っているのだ。
 本来なら僕が率先して回収しようとする当事者なのだけれど、幼なじみの副会長が頑張っているから僕は傍観することにした。
 ちなみに副会長に圧力をかけられても屈しないのは、これまた幼なじみの広報部部長だ。写真を撮る時は昔ながらの一眼レフを愛用し、デジカメは使わない主義だ。先程からデータではなくネガを寄越せと言っているのはそのせいだった。
「お願いしてるうちにさっさと出しなよねー」
「お願い? オマエの場合はお願いじゃなくて脅しの間違いだろ。それに記事にする訳じゃなくて俺のコレクションなんだから、これに関してとやかく言われる筋合いはない」
 部長はフンと鼻を鳴らしてそっぽを向いた。
「あのさ、百歩譲って写真撮ったのは良しとして、それこそコレクションとしてしまっておいてわざわざ見せなければこの押し問答にならなかったよね?」
 いつものことだから二人をそのまま放っておいてもいいんだけど、もうすぐ授業が始まるから仕方なく声をかける。
 そしたら部長は呆れたように僕に言った。
「コレクションて見せびらかしてなんぼじゃね?」
 たしかにそうかもしれないけど、それは見せびらかす価値のある場合だろう。会計はともかく僕の価値は無いと思う。ちょっとイラっとしたので部長に手を差し出して言った。
「…僕がやたら貧弱に見えて、その写真不敏過ぎるよね。なんか涙出そうなんだけど。だからキミの脳裏から、いやコレクションからそれ消し去りたいからさっさとネガちょーだい」
ニコッ、と笑顔で告げたら幼なじみ二人は揃いの引き攣った笑みを浮かべる。なんだ、仲がいいじゃないか。でも部長はそこで頷きはしなかった。
「いくらオマエのお願いでも却下だ。せっかく望遠でわざわざ撮った俺のお宝をみすみす手放してなるものか。会計なんてどうでもいいけどな!」
「良いからちょうだい」
 手を伸ばして部長から写真だけでも奪い取ろうとしたら、その写真を脇から出てきた手に奪い取られた。
「ふぇっ? ちょっと、それ僕が……」
「ふうん、よく撮れてる。コレ、オレの出演料として没収な」
 ニヤリと笑った会計がそのまま写真を奪い、去って行った。オマエ、それは泥棒だろう。でも部長は小さな溜息一つでそれを見送った。
「出演料……まあ、それは仕方ないか」
 ぽつり、と呟いた部長はオレと副会長を残して足早に消えていく。しまった、逃げられた!
 取り残された僕と副会長は顔を見合わせ共に深い溜息を吐く。
「アイツ、いつものごとくしばらく雲隠れするよねー」
「するだろうね。結局ネガもらえなかったし……会計に写真盗られるし……」
 今日も悲しいことに幸せを吐き出した僕は、重苦しい溜息テンションのままがっくりと項垂れ、チャイムの音を聞いたのだった。


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