雨音で目が覚めた僕は、なんだかちょっと憂鬱な気持ちになった。
 カーテンを開けて様子を窺っても止む気配は少しもなくて、小さくひとつため息を吐く。
 雨の日は頭が重くて、外出しなければならない時は本当にテンションが下がる。
 今日は生徒総会があるから、書記の僕が休むわけにはいかない。仕事をサボる生徒会役員に小言を言うのは何故か僕の仕事だ。なんで毎回毎回僕が役員の尻を叩いて急かさなければならないのか良く分からない。
 僕もけっこう自由奔放に生きているタイプだけど、だからといって責任感がないわけじゃないから、もそもそと動き出して用意を始めた。

 少しでも気分を良くする為に、一目ぼれして購入したお気に入りの傘をさして家を出た。
 足元の水溜りを眺めながら歩くけれど、出て早々にため息が漏れる。
 まだ早朝。しかも家を出たばかりなのに、僕の幸せが今日はすでに二つも逃げたことになる。
 あぁ、やっぱり足元が濡れてしまうのが苦手だ。
 柔らかい毛質でくせ毛だからか髪の毛は湿気で膨らんでもさもさになるし、頭痛はするし、足も服も濡れるし。
 雨の日の嫌な事ばかりが頭の中に浮かんできて、頭痛が酷くなってきた。

 ため息を吐いてもう一度幸せを逃がした瞬間、ふと何処かで嗅いだことのある香りがふわりと香った。
 雨の日は空気中に香りが留まることが多いからか、いつも通ってる道なのにそれを感じたのは今日が初めてだった。
 俯いたままの僕は慌てて顔を上げると、辺りを見渡した。
 すると目に飛び込んでくる鮮やかな色の花たち。
 黄色やオレンジ、ピンクなどの花が咲き乱れる公園の花壇だった。そういえばこの花壇の手入れをお爺さんがしていたのを見たことがある。
 パンジーやベゴニア、ゼラニュームが咲く中に、オレンジ色のマリーゴールドの花が咲いていた。
 僕が嗅いだことがあるのはこの花の香りだったようだ。癖の強い香りだけれど、嫌いではない香り。
 知らず知らずのうちに笑みが浮かんでいた。

 雨の日も悪いことばかりじゃないみたいだ。
 雨で汚れが取り払われた花の色が、すっきりとした気分を与えてくれる。
 自然に浮かんだ笑みのまま、さっきと同じように足元を眺めて歩き出す。
 やっぱり足が濡れるのはイヤだけど、足元の様々な大きさの波紋はとても綺麗だ。
 ぱしゃん、と水音を立てて歩く。
 耳に心地よい雨音も本当は好きだ。いくつも重なるように広がる波紋も綺麗で好きだ。

 さっきまで重かった頭と気持ちがほんの少しだけ軽くなって、落ちていたテンションがあがる。
 ゆっくりとお気に入りの傘を回して、雨が作る波紋に僕の波紋も重ねていく。
 その頃には憂鬱な気持ちはどこか晴れていて、僕の足取りは軽かった。
 少し笑顔になった、僕の雨降りテンション。


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