「アンタの手、あったかいな」
「そうかな? でもジュリオの方が温かいよ」
子供体温?、なんて茶化したら烈火の如く怒られた。でもこれは確実に私が悪い。
本当はなんとなく気付き始めていた。ジュリオが見た目と同等ではないということに。もしかしたら自分よりも遥かに歳をとっているかもしれないということに。
だからまだ言うべきではなかったのだ。このことについては、まだ聞いても良い時期ではないのだ、きっと。
私は大人しく口を噤み、紅茶を嚥下する。
喉元を過ぎていく温くなった紅茶が、私の中に燻り始めた熱をほんの少しだけ冷やしていった。
その後も香りの良い紅茶を飲みながら、ジュリオとの他愛のない会話をする。
そんな時間がとても有意義に感じられて、私は至極ご満悦だった。
しかし、それを打ち破る声が部屋に響き渡った。
私はこの店でジュリオ以外の人物を見たことが今まで無かった。だから、突然聞こえてきた罵声に私は上手く反応できずにいた。
「お兄様ぁあ! なんでこんなクソ面白くもなさそうな低俗な輩と呑気にお茶などされているのですか? アタクシとのティータイムは?」
丁寧な言葉遣いの中に、場違いな程荒れた言葉が見え隠れしているのは気のせいだろうか。驚きから何度か瞬きし、目の前の少女を観察する。
確実に私はこの少女に歓迎されていない。それだけは分かる。
ジュリオと同じ漆黒の髪は両耳の上で二つに結い上げられており、緩いカールを描いて腰の辺りに到達している。ぱっちりとした二重の瞳は大きく、形の良い少し厚めの唇はぽってりとしていて視線を奪う。ジュリオを『お兄様』と呼ぶのだから、血縁者なのかもしれない。確かに顔の造形は似通っている。双子かな?、とぼんやり思っていると、ジュリオが立ち上がり、躊躇いもなく少女に回し蹴りを喰らわした。風を切る音がし、少女の横っ腹に蹴りが入る。
「えっ……」
思わず声が漏れてしまったが、まさか本の虫のようなジュリオがそんなことをするとは思わなかったからだ。実は武闘派だったのか、そんな馬鹿な。
勢いのある回し蹴りを喰らった少女は、慣れた様子で受け身を取りつつ後退する。しかし、衝撃は免れなかったようで、可愛らしい顔を歪めていた。
そんな二人を前に呆気にとられた私は動きを止め、ジュリオの後ろ姿を見つめ続けた。
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