「あんまり甘くなくて美味しい。私好みだ」
「ほんと? 良かった」

 コンフィチュールを付けたワッフルが美味しくて笑みを漏らしつつ呟くと、ジュリオが嬉しそうに目を輝かせた。

「うん、美味しい。そういえば、最近は甘さ控えめ?」
「えっ? 別にそういうワケじゃ……」

 視線を明後日の方向へ向けたジュリオは言葉を濁す。
 あぁ、やっぱりそうか、と私は心の内でだけ小さく笑った。
 目の前の少年に好かれていると自惚れてるのかもしれないと思ったが、これはどうやら自惚れでも誤解でもなく、真実であったようだ。ジュリオは私のために甘さ控えめの菓子を用意してくれている。そのことが嬉しくて私は素直にその気持ちを言葉に表した。

「ありがとう」
「ぅえっ……い、いや…だから、その……あー、もうアンタといると調子狂う」

 ジュリオは被っていたシルクハットを投げ捨てると、ぐしゃぐしゃと黒い髪を掻きむしった。サラサラの髪が鳥の巣の様に絡まり、見るも無惨な姿になる。
 そんな目の前の髪の毛に思わず手が伸びた。するすると丁寧に絡まった髪の毛を解いてやる。
 するとジュリオの動きが瞬時に固まった。そしてぎこちなく私の顔を見上げてくる。不安そうな瞳はいつもの不貞不貞しさの欠片もない。

「せっかく可愛らしく整ってるのに勿体ない」

 見上げてくる瞳に笑いかけ、私はその後も髪を梳いてやる。痛みなど感じられない程に光沢のある黒髪はすぐに解けて指の間を通り抜ける。すると猫の様に目を細め、ジュリオは気持ちよさそうに呟いた。

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