「さぁてね」

 あとはー、と言いながら少年は私の前に十冊程本を重ねると店の奥を指差した。少年の黒髪が揺れる。
 促されるままに視線を向けると、そこには柔らかそうなソファとテーブルがあった。

「そこにソファとテーブルあるだろ。本なんて買わなくて良いからそこで調べていったら? 家でゆっくり書くって言うなら、本の貸出しもしてやるし。オレも二十四時間好き勝手やってるからアンタも好きな時に来て、好きなだけ居ればいいさ。あー、それと特別にお茶くらいなら出してやるし」
「でも……さっき来たばかりなのにそんな特別待遇みたいなことは……」

 常連客ならまだしも、と言うと少年は告げる。

「特別っていうか…自分の事を飾らない正直者は好きなんだ。アンタ、結構気に入った。それにアンタはこれから常連客になるだろうし。……あぁ、これは予言な。オレの予言は結構当たるんだ」

 片目を瞑って悪戯っぽく笑う少年に、私もつられて笑ってしまった。 確かに、私は少年に興味を持ち始めている。さっきだって必要な本を早く見つけて、少年と会話がしたいと望んだのだから。
 少年の『予言』通り、私は多分足繁くここに通い、常連客になるだろう。
 ただし、本の物色にではなく、主に少年との会話を楽しみに。さばさばとしていて、少年と話しているような気がしない。達観してる所がある。私は先ほどよりも、もっと少年の事が知りたくなった。

「キミの予言は当たるかもしれないね。そうだ、遅くなったけど私はアリスティドと言うんだ。冴えない貧乏学生だよ。キミは?」

 今更ながら自己紹介をすると、少年は瞳を輝かせる。まるでそれを待っていたとでもいうように。そして少年も名を名乗る。

「オレはジュリオ。この店の主。……これでいい? 他は……今はまだ内緒。で、どうする? お茶、それとも読書?」

 私は迷わず答えた。

「では、キミと話を」

 ジュリオは呆気にとられた表情をしたが、くすくすと笑いだし、了解、と声をあげる。
 こうしてその日私は、不思議な一軒の古書店と少年を見つけた。

第1話FIN

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