「へぇ、面白い事調べてるんだ。レポートかなんか?」

 そうだ、と頷くと少年は暫く何事か考え始めた。しかしすぐに、ぽんっ、と手を叩くと近くの本を数冊、私の前に積み上げ始めた。何事か、と戸惑う私は少年に尋ねる。

「この本は?」

 すると少年は悪戯な笑みを浮かべ言った。

「コレ? そりゃもちろん、アンタの資料。レポートにするんだったら、ここら辺のも良いデータになるよ。それに、どれも図書館とかには置いてない代物だから価値は十分だと思うよ? きっとね、教授クラスの人達驚くんじゃない?」

 恥ずかしい話だが、私は資料としてその本すべてを買う余裕が無かった。そんなに貴重なものなら値段も相当するだろう。ただ、まだ中身を見ていないから分からないが、この資料を手放すのは惜しい気がする。だがそれも致し方ない。

「探して貰ってこんなこと言うのは大変申し訳ないけど、そんなに私は買う事ができないし……持ち合わせがほとんど無いんだ」
「なんだ、そんなこと心配してたんだ。別に買ってくれなくて良いよ。この店だって、金銭目当てでやってる訳じゃないし。なんていうか、ただの暇つぶし」

 残念そうに告げた私に少年は、あっけらかんと告げた。それはもう、私が拍子抜けするくらいに。

「キミは一体……」

 思わず本音が漏れた。これだけの本を集める事だって大変だろう。それなのに、この目の前の少年は金銭目的でもなく、ただの暇つぶしで古書店を開いているというのだ。なんてことないよと呟いて。そう呟く少年が少しだけ淋しそうに見えたのは気のせいだろうか。少年は私の問いを口元に浮かべた笑みで誤魔化した。

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