古書店2
 確かにこの店の品揃えは目を見張るものがあった。専門書から名もない人が出した論文まで何故か置かれている。さらりと眺めてみただけだが図書館よりも品揃えは良い。これなら探しているものもあるかもしれない。気合いを入れて、私は再び膨大な数の本が収められている本棚と向き合った。
 その時、ふいに背後から声をかけられた。

「ねぇ、何を探してるの?」

 私にはまったく興味がなさそうにしていた少年だ。じっと私を見つめた少年は再度同じ言葉を口にした。一瞬、躊躇った後、正直に探しているものを少年に告げる。もし留守番だったとしても、初めて訪れた私よりはこの部屋に詳しいに違いない。すると、少年はすぐにある一点を指差した。

「あぁ、それなら、ソコ。アンタの立ってる位置から、もう少し左に寄った下の方」

 私が戸惑ってると少年はカウンターから出て近寄ってきた。

「あぁ、違う違う。 はぁ、まったく……ココだよ、ココ。……はい。あとどんなもんを探してんの?」

 少年は私に本を手渡しながら尋ねてくる。

「……えっ?」

 私は一瞬呆気にとられた。少年はこの膨大な量のすべてを把握しているのだろうか。実はそこまで期待はしていなかったので、本の題名を言っただけでこんなに早く見つかるとは思っていなかった。せいぜいこの辺りがその分野だと言われるくらいだと思っていた。
 しかし、少年は疑うまでもなくすべての本を把握しているのだろう。そうでなければ、すぐに題名を伝えただけで本を指し示せる訳がない。反応のない私に焦れたのか、少年が頬を膨らまし、もう一度問う。

「えっ、じゃなくてさ。アンタなんかちょっと鈍くさそうだから、オレが手伝ってやるよ。ほら、早く言ってみな」

 先ほどまで全く興味の湧かなかった少年に、私は興味を持ち始めた。よく見てみれば、シルクハットの下にある顔も整っていて愛らしい。黒いさらりとした細い髪は肩口まで伸ばされているが、手入れがしっかりされているのか艶がある。色白の顔はほんのりと朱が差し、幼く見えた。しかし態度は私よりも偉そうだ。
 そんな事を考えつつも、私は思う。手伝ってくれるというのならば少年に頼んだ方がここは早そうだ、と。そして資料を早く見つけて、空いた時間でこの奇妙な少年と話をしてみるのも悪くないかもしれない。
 私は探している内容を少年に告げた。
 
BACK< >NEXT